-水槽のお引越しについて-

 水槽の引越しについてのご相談が昨今しばしばありましたので、私がこれまで行った水槽の移動方やそれに関する方法を以下にご紹介いたします。

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@計画と時間

 まず、移動する場所や移動に要する時間によって対処が変ってきますのでだいたいの計画を立てる必要があります。
ここでは、おうちの引越しに伴う水槽の移動(引越し)を前提にしており、以下順番でご紹介します。  

主な必要なもの:

 新しい人工海水の素、新しい物理ろ材(ウールマット等)、電池式エアーポンプもしくは携帯用酸素スプレー(輸送方法によるA参照)、生体移動用の発泡スチロールの箱、砂
を移動させるための丈夫な100サイズ程度のダンボールもしくは発泡スチロールの箱、90Lくらいのできるだけ厚手のゴミ袋、生体を購入した時にもらった生体用の袋、
 、時期によっては、保温のためのカイロ、500ml程度のペットボトルに水を入れて凍らせたもの。(他、場合によって活性炭など)

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A生き物の梱包・一時退避

 移動のため、生き物を梱包します。方法には数種あります。
もし移動先が近い場合(1時間程度まで)などは、まとめて大きな発泡スチロールの入れ物の中に、大きなゴミ袋を1枚セットして、魚をまとめて収容すると楽です。
なお、この間、電池式のエアーポンプでエアーレーションを行っておくか、もしくは薬局で売っている携帯用酸素スプレーでエアーを詰めて袋の口をしっかり止めておきます。

 しかし、この方法は魚同士が擦れをおこしたりする可能性もあり、長時間の輸送になるなら各個体ごとに生体を購入した際のビニール袋に入れ、これを上記の携帯用酸素
スプレー、もしくは商品名”酸素の出る石 移動用”などを使用します。酸素の出る石は規定量の倍程度は使用する必要があり、海水魚は大きな魚が多いため、酸素スプレー
の方がお勧めです。
 魚と一緒に梱包する水量は、あくまで当日中の移動であるならあまり心配する必要はなく、だいたいで大丈夫です。4〜5cmの魚なら1L程度もしくは、その魚が入る生体
用の大きさの袋の、半分くらいまで水を入れ、のこりを酸素にしておけばまず大丈夫です。(多くの場合、これで翌日まで持ちます。)
 輸送が長時間もしくは翌日になる場合、市販のヤシガラ活性炭などの袋を破って中身を一つまみ、直接一緒に入れておくとなお良いでしょう。(私が通販でいつも行っている
方法です) 
 あと大事なのが保温です。至近距離であったり、輸送中の車の中が保温が効いているならよいのですが、そうでない場合は別途保温を行う必要があります。
上記で生体と水を入れたビニール袋を、それが入る発泡スチロールやクーラーBOXに入れ、梱包テープなどで密閉します。これだけでもかなり保温になり、輸送が1〜2時間
程度ならかなり外気温との差が大きくても大丈夫ですが、それ以上の輸送になるなら、夏なら氷嚢、冬はカイロを箱の中に入れます。
 使用量は箱の大きさによって違いますが、氷嚢は500mlのペットボトルに水を入れたものを凍らせ、それを新聞紙で3重くらいに巻いたものが便利で、1本で箱の大きさで宅
配で言うところの120サイズくらいまで使用できます。
 カイロは、使用する前によく振り、箱の天井(すなわち箱の蓋)に貼り付けて使用し、120サイズなら2〜4枚使用しておけばよいでしょう。気温によっても違いますので調整は
お願いします。 
 なお、生体の梱包が終わったら、まだ以下の作業が残っています。魚が起きていると酸素をよく消費しますので、箱の蓋をしめ、暗くしておいて魚を眠らせましょう。まとめて
収容したばあいはケンカ防止のため重要です。


薬局で販売されている酸素スプレーです。写真のようにエアーチューブを繋ぐと使用しやすいです。  


生体を梱包している発泡ストロールとダンボールの箱。写真ではマリスクの引越しで、小さなサメを入れていました。
夏場であればこの上に新聞紙を数枚、載せて上に氷嚢を、冬場であればフタの天井にカイロを貼り付けます。

A追記 遠方へのお引越しの場合は生体を手放すのが無難です 2017/9/19追記

 お客様で遠方へお引越しされる方のことがあり、思い至って追記しております。
 上記までは、あくまで生き物も一緒に引越しをする場合のお話ですが、そもそも引越しの輸送に2日以上もかかる遠方へのお引越しの場合、魚の輸送と受け取り・立ち上
げがそもそも困難な場合が考えられます。また、到着地ですぐに水槽を立ち上げられる必要があり、なかなかそのようなことが出来ない場合も多いと思います。

 引越しを機会に、新しい水槽をしたて、先に到着地で別の水槽が用意できていれば一番いいのですが、そういうことが難しい場合、一旦生体は引越し前にお店や他人様に
ひきとってもらうなど、なんらかの形で一旦手放すのが本当は一番無難です。仮に水槽をすぐに立ち上げるにしても、砂やライブロックだけは持って行って、生き物だけは別
に引き取ってもらう、というのも慎重な考え方だと思います。
 また、買っていた生き物を売り飛ばすというのは心無い気がして気が引けますが、オークションにかければ確実のその価値を認めてくれる人が落札するわけですから、大事に
してくれる可能性も高いといえ、個人的には生き物のことを考えてもお勧めな方法の一つです。
 おうちの引越しは、そのもの自体が全体で大変ですので一旦海水魚を休止され、おちついてから再開するというのが本来は一番のお勧めです。
 また、他人に生き物を預かってもらう場合も考えられ、私自身も経験がありますが、これはよくよく相談しておかなければトラブルのもとになります。
 預かっている生体が死んだ場合、輸送で死んだ場合にはそれぞれにどうするのかなど、事前に十分に決めておく必要があるでしょう。

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B排水〜砂とろ材の処理 

 生体の梱包が終わったら、水の排水とろ材・底砂の梱包です。ここはかなり重要なポイントです。
普通こういった砂やろ材を取り出す際、これまでの常識ではろ材や砂の汚れを洗いながら移し変えるのですが、海水魚では、これをあまり洗い過ぎない方が良い二つの理由
があります。まず、ろ過細菌は非常にろ材から剥がれやすく、ますます細菌が減ってしまうこと。もうひとつは、汚れそのものもあまり取り除いてしまうと、あたらしくセットしなお
した際、かえって長期間水が綺麗にならなくなります。これは、ろ過器の物理ろ過が働くためにはある程度ゴミが溜まっている状態が必要なためで、汚れが少ないと、除去する
力が無くなり、かえって水中に細菌が多く長期間浮遊してしまって魚が細菌性の病気になる可能性が大変高くなります。
 一応、これまで水槽の移動をなんどもやってみて一番良かった各ろ材・砂の処理方法を以下にお知らせします。

・物理ろ材(ウールマット) → これは廃棄(もしくは淡水で洗濯機などで完全に洗浄)し、新しい水槽では新品をセットします。
・生物ろ材          → 細菌を保護する意味もあって、できるだけ溜まっている汚れと一緒に梱包します。
・底砂             →  軽く漱ぎながら梱包します。

 物理ろ材を新品に換える理由は、通常、使い古したウールには大量の汚れが”保留”する形で溜まっており、新しくセットした場所では逆に汚れを長期間に渡って放出し、もう
いちど安定するまでかなりの時間を要してしまいます。この間が魚に大変危険です。
 サンゴ砂などの生物ろ材ももちろん汚れを含んだままでのセットを行えば汚れを放出しますが、これら固体的な生物ろ材はウールなどに比較して汚れを短時間しか放出せず、
放出した汚れは新しいウールに早期にたまり、この部分が新しい物理ろ過的な安定を得るための最低限の”壁”になります。

なお、ろ材・砂の梱包の方法はそれほどこだわる必要はなく、丈夫な100サイズ程度までのダンボールにゴミ袋を3重くらいにして水を切りながら砂を移します。
ただ、1日以上の長期間の保存になる場合は、バケツなどの容器の底にエアーストーンを設置した状態で砂を入れて海水で浸し、エアーレーションしておきます。これなら1週
間程度置いても問題ありません。(エアーレーションしないと、酸欠になって硫化水素が発生してしまいます。)

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C設置・空運転

 移動が無事すんだら、目的地に水槽を設置します。この間、電気関係のトラブルや配管に漏れがないかどうかなどかならずチェックし、特にOF式などは新しい海水を溶く前、
まず淡水の状態で回してみて、配管に漏れなどがないかどうか一応調べます。問題なければ、人工海水の素を溶解します。
 一旦循環の運転を止めて、各ろ材や砂を入れます。このとき、汚れがかなり水中に舞いますが、これは心配する必要はなく、Bでも触れましたがむしろこの初期の汚れが物
理ろ材に集中することで、最低限の(細菌を除去する物理ろ過的な)安定を得ることができます。運転をはじめたら、決してこの物理ろ材の部分を動かしてはいけません。今水
槽の(水中の細菌を除去するという意味での)安定はこの部分だけにほとんど頼っているということを忘れないようにしたいと思います。 
 この状態で、しばらく空運転をします。なお、殺菌灯やオゾンを使用していた場合は、運転をはじめて最初の20〜30分は稼働させず、30分後から稼働させ、もう最低30分
以上を待ち、水が見た目に透明になってから生体を入れていきます。この空運転の時間は長いほどよく、特に殺菌灯やオゾンが無い場合は、箱に入れている生体の状態に
異常がなければもう1〜2時間くらいは行いたいところですが、魚の状態を見て検討願います。魚を個々に梱包している場合、待ちと温度あわせを兼ねて水面に浮かべておくと
良いでしょう。

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D生体の再収用

 こののち、生体を収容します。魚を纏めてひとつの箱に入れていた場合、入れ物と水槽の水を15分ごとに4分の1づつ交換し、交換する量を1回ごとに少しづつふやして、計1
時間くらいかけます。水槽の水と箱の水がほぼ一緒になり、水温計で見て水温も全く変わりがなかったら魚を戻します。
 なお、翌日〜翌々日あたりに、魚が病気にかかっていないか用心します。無脊椎水槽の場合、手のうちようがありませんが、このとき、オゾンや殺菌灯があると役立ちます。
魚専用水槽の場合は、低比重+GFG、硫酸銅などの処置を行いますが、この安定していないときに硫酸銅を使用すると細菌病にきわめて犯されやすくなるため、使用は避けた
方が良いでしょう。

Eその他・追加のテクニック

・白点病・ウーディニウム病の恐れのある場合

  もし、治療の出来ない無脊椎系水槽で、過去に白点病・ウーディニウム病が発生したことがあり、再発をひきおこしそうな場合、また収容している魚が多く、白点の場合はオ
ゾン、ウーディニウムの場合は殺菌灯がそれぞれ無いという場合、水槽の移動によってろ材をひっくり返すため、病気が再発する恐れがあります。この場合、砂を移動する前に
一度砂を新しい40℃の海水に浸して、10分程度を置けば、さしあたってろ過細菌は無事のまま、病原虫のみを殺すことができます。ただ、ヨコエビなどの益虫も死にますので
その覚悟は必要です。 

・魚専用水槽の場合、前もって低比重+グリーンFゴールドを使用すると安全

 無脊椎・ライブロックなど一切無い、魚専用水槽の場合、まえもって比重を1.012〜1.014(ディープシックス比重計)にしておき、グリーンFゴールドを使用しておけば多くの病気
を未然に予防できます。後、1週間程度経過してから活性炭を入れて色を取り除き、海水の比重を通常に戻すと良いでしょう。

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以上、簡単ではありますが普段私がこれまでに水槽の引越しなどをした際の経験をもとにお知らせいたします。
後日、追加記事や写真がありましたらまた追加したいと思います。ご精読、有難うございました。

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